陸上養殖の要「水槽・プール」選びとシステム構築のポイント

陸上養殖とは?なぜ注目されるのか

近年、気候変動や海洋環境の悪化により、持続可能な水産業への関心が高まっています。

その中でも注目されているのが「陸上養殖」です。

これは、海や河川ではなく、陸地に設けた水槽やプールで魚や甲殻類を育てる養殖方法で、赤潮や台風など自然災害の影響を受けにくく、都市部や内陸部でも水産業を展開できるというメリットがあります。

養殖される魚種も多様化しており、サクラマスやサーモンといった高級魚から、バナメイエビなどの甲殻類までさまざまです。

特にスタートアップ企業やベンチャー企業が、フードテック分野でのビジネスチャンスとして注目しています。

 

陸上養殖に必要な水槽・プールの種類と特徴

陸上養殖の根幹を支えるのが、水をためる「水槽」や「プール」の設備です。

使用する容器の形状や材質は、養殖する魚種や施設の規模、導入するシステムとの相性によって、最適なものを選ぶ必要があります。

一般的に広く使われているのがFRP(繊維強化プラスチック)製の水槽です。

耐久性に優れ、長期使用に適しており、円形や長方形などさまざまな形状があります。

とくに円形水槽は中央に水流を作りやすく、排水効率が高いため、水質管理がしやすいというメリットがあります。

一方で、長方形の水槽は空間効率が高く、大規模施設のレイアウトに適しています。

近年注目されているのが、パイプ式貯水槽などの仮設型・分解可能な水槽です。

FRP水槽と比べて軽量で、設置・撤去が短時間で行えるため、スモールスタートや実証実験、期間限定の養殖事業にも対応しやすい点が特長です。

さらに、折りたたんで保管・輸送できるため、保管スペースの確保や移設時のコスト削減にもつながります。

耐久性や長期使用を重視するならFRP製、初期費用や柔軟性、仮設性を重視するならパイプ式、といったように、用途や事業フェーズに応じた選定が重要です。

 

陸上養殖用水槽の比較表|FRP水槽とパイプ式貯水槽

項目 FRP水槽(従来型) パイプ式貯水槽(仮設型)
設置方法 常設が前提。基礎・固定が必要 組立式。フレーム+シートで設置可能
設置にかかる時間 半日〜数日程度(サイズ・工事内容により変動) 約30分〜半日程度(サイズにより変動)
耐久性 非常に高く、10年以上の使用実績あり 中〜高。使用条件により耐久性が異なる
移設・再利用性 移設不可(固定式) 分解・再設置可能。保管や他現場への転用が容易
初期費用 材料・加工費が高く、全体的にコストがかかる 比較的安価。配送・保管コストも抑えられる
形状の自由度 円形・楕円・長方形など自由設計が可能 基本は円形や四角形などの既製サイズだが自由設計も可能
適した用途 本格的な陸上養殖施設、長期・大量生産向き スモールスタート、仮設設備、実証試験・短期運用向き
導入事例 サクラマスやサーモンなど高付加価値魚種の量産型施設 バナメイエビの仮設型養殖、地域連携の実証事業など

 

陸上養殖システムと設備コストの考え方

陸上養殖では、水槽だけでなく、「水を循環させて浄化・温度調整・酸素供給を行う」システムが不可欠です。

これらは総称してRAS(再循環式水産養殖システム)と呼ばれています。

RASは閉鎖環境で水を繰り返し使用できるため、水の消費量を抑えながら高精度な管理が可能になります。

システム構成の例としては、水槽、フィルター、UV殺菌装置、酸素供給装置、ヒーター、循環ポンプなどが挙げられます。

また、近年ではIoTセンサーを活用し、水温・水質・水位をリアルタイムで監視・制御する取り組みも進んでいます。

これらの設備には初期投資が必要で、たとえば水槽・配管・ろ過装置などを含めた基本システムで数百万円〜数千万円程度かかることもあります。

また、電気代や酸素供給、メンテナンスなどのランニングコストも継続的に発生します。

事業計画を立てる際には、コストの内訳と回収計画を明確にすることが成功の鍵です。

 

陸上養殖のメリット・デメリットと成功のポイント

陸上養殖のメリットは多岐にわたります。

まず、品質の安定性が高く、異物混入や病気のリスクが低減されるため、ブランド価値の高い商品を育てることができます。

また、収穫時期や出荷タイミングを調整しやすいため、市場価格や需要に応じた柔軟な販売戦略も可能です。

一方で、デメリットとしては初期投資が大きいこと、電力や機械設備への依存が高いこと、技術者の育成が必要であることが挙げられます。

こうした課題に対応するためには、小型・仮設型の設備を活用して段階的にスケールアップする、自治体や大学の実証事業に参加してノウハウを得るなどの工夫が求められます。

 

陸上養殖の今後の展望

陸上養殖は、今後の水産業を支える重要な選択肢として注目されています。

今後は、スタートアップ企業によるテクノロジー導入や、自治体との連携による地域活性化、さらに海外輸出を見据えた取り組みなど、可能性はますます広がっています。

水槽やプールといった設備の選定は、事業の成否を大きく左右する要素です。

初期投資やランニングコストの計算、システム構築、魚種選定といった要素をバランスよく検討し、持続可能で競争力のある養殖事業を実現していきましょう。

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